東京高等裁判所 昭和43年(行コ)34号 判決
みぎ当事者間の昭和四三年(行コ)第三四号裁決並に更正処分取消請求控訴事件について、当裁判所は、つぎのとおり判決する。
主文
被控訴人両名に対する本件各控訴を棄却する。
控訴費用は、控訴人の負担とする。
事実
控訴人訴訟代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人東京国税局長が控訴人に対し昭和四一年五月一二日付でなした審査請求却下の裁決を取り消す。昭和四〇年一二月二五日付で被控訴人芝税務署長がなした控訴人に関する法人税についての昭和三九年度分法人税額等の更正および加算税の賦課処分を取り消す。訴訟費用は、被控訴人の負担とする。」との判決を、被控訴人ら指定代理人は、控訴棄却の判決を各求めた。
当事者双方の主張および証拠は、控訴人訴訟代理人が当審において、末尾添付の別紙に引用記載のとおり述べたほか、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。
理由
控訴人の被控訴人らに対する本訴請求が不適法ないし理由がないとすることについての当裁判所の判断は、控訴人の当審での主張に対しつぎに示すほかは、原判決理由中の説明と同一であるから、ここにこれを引用する。
一、控訴の理由第一点について、国税通則法の規定する審査請求が同法第七九条第一項第一号、第七六条第一項の規定する期間経過後にされたものであるとき、審査庁が、当該審査請求を不適法として却下すべきことは、同法第七五条、行政不服審査法第四〇条第一項の各規定の定めるところである。本件において、審査庁である被控訴人東京国税局長が、控訴人のなした審査請求につき法定の期間経過後のものであるとみる限り、みぎ各法条の示すところに従い、これを却下したことは、適法である。
そうしてみぎ期間が控訴人によつて遵守されなかつたとする当裁判所の判断は、原判決の判示するところと同じであつて、被控訴人芝税務署長に対する訴えは、適法な審査請求の前置を欠くから、不適当である。この場合に審査請求の本案である課税処分の当否についての判断を示さないことをもつて、憲法違反ということはできない。
二、控訴の理由第二点について、論旨引用の国税通則法第七九条第一項本文に「処分があつたことを知つた日」という字句があるが、同条のみぎ字句は、同条と同じく同法第八章不服審査及び訴訟、第一節不服審査の節に属する第七六条第一項に「処分があつたことを知つた日(その処分に係る通知を受けたときは、その受けた日。以下この節において同じ。)」と定めたことを承けて規定されたものである。本件において、控訴人が本件更正処分の通知書の送達を昭和四〇年一二月二七日に受けたことは、その自ら認めるところであるから、これに対する審査請求をなすことのできる法定の一月は、同日から起算すべきである。所論引用の最高裁判所の判例は、本件に適切でない。控訴人のなした審査請求が法定の期間を徒過したことについてやむを得ない理由ないし宥恕すべき事由が認められないことについては、原判決の判示するとおりであり、その判示に反対する所論は、独自の見解に立つものであつて、これを採用することができない。
三、控訴の理由第三点について、所論は、国税通則法第八〇条の規定を援用するが、同条の規定は、税務署長がした処分について、税務署長に異議申立てをした場合に関するものである。しかるに、本件の原処分は、税務署長がした処分であるが、その通知書に、東京国税庁の職員の調査にもとづく処分である旨の記載があることは、原判決の判示するとおりであり、控訴人は、同法第七九条第一項第一号の規定によつて被控訴人東京国税局長に審査請求をしたのである。従つて、控訴人が同法第八〇条の規定を援いとする所論は、理由がない。また、本件の場合に同法第八七条第一項第一号の規定の適用せらるべきでないことについては、原判決が、理由一の末尾に判示するとおりである。
四、控訴理由第四点について、原判決が引用した乙第六号証に作成日付の記入のないことは、所論のとおりであつて、公文書の体裁として、必ずしも相当でない。しかし、同号証の全体を仔細に検討すれば、被控訴人東京国税局に附置された協議団が、控訴人のなした審査請求について、これを却下することが相当である旨の議決を昭和四一年三月以降になしたことの報告書であると認められる。してみれば、控訴人がこれに対し不知をもつて答えたとしても、原裁判所が「方式及び趣旨により公文書として認められる。」として、成立の真正を認めたうえで、協議団の議決を経たことの認定の資料に供したことは、違法であるといえない。
これを要するに、控訴人の被控訴人芝税務署長に対する請求は、不適法であり、被控訴人東京国税局長に対する請求は、理由がない。よつて、これと同旨に出た原判決は相当であるから、本件各控訴を棄却することとし、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中西彦二郎 裁判官 兼築義春 裁判官 高橋正憲)
控訴の理由
一、控訴人の被控訴人芝税務署長に対する訴は、被控訴人が控訴人の本件確定申告の中で、支店勘定である費用を本店勘定として、これを支店の経費として認めず課税した点、並びに支店の資金二千万円が、預け先訴外不動信用金庫が破産した結果千四百万円の損害を受けたのに、理由なくこれを本店勘定であるとして、支店の欠損として認めず、これに課税した不当な課税に対し、審査請求を被控訴人東京国税局長に提出したところ、被控訴人東京国税局長は単に適法な前置を欠くものとしてこれを却下した。依つて、控訴人は正当な判断を受くべく訴を提起したものである。
然るに原審は、被控訴人の不当な更正決定につき、何等審議することなく、被控訴人の云う適法な前置がなかつたという点のみを取上げて訴を却下した。
提訴は、国民(外国人を含む)の基本的人権である。その訴の内容を充分審理することなく、単なる手続上の不備を理由として五百万円以上の不当な課税を不問に付したことは、建法違反の謗を免れないものである。国民の納税意識を高めさせるため税務当局は、常に適正課税と取扱の親切をモツトーとしているのに、審査請求が五、六日遅れたからと云つてその内容を充分審議することなく、手続上の瑕疵を奇貨として訴を却下したことは審理不尽である。
二、審査請求に関する規定は国税通則法第七九条であり、それには「斯る処分を知つたときから一ケ月以内に提出することができる」とあり、同法ではその他の箇所でも「知つたときより」と繰返している。
納税者としては前記該当法規に基き行動するのは当然である。
最高裁判所昭和二六年(オ)第三九二号の判決要旨に依れば、「自作農創設特別措置法第四七条の二にいう「当事者かその処分のあつたことを知つた日」とは、当事者が書類の交付、口頭の告知、その他の方法により処分を現実に知つた日を指すのであつて、抽象的な知り得べかりし日を意味するものではない。」とあり、本案とは法律は異にするが、「その処分のあつたことを知つた日」と云う法律上の用語に対する解釈を明確にしたもので、本案に於いては外国人の会社責任者が日本語を解せざる結果、訳文に頼らざるを得ず、それを見て始めて現実に更正決定の内容を知りその時から遅滞なく検討して一ケ月以内に審査請求を提出したのであつてその事情は充分推量され、宥恕さるべき理由のあるものである。
殊にその規定を知つたのは、政府が認可した公認会計士たる証人ウイリアム・ソルターの進言によつたことは、証拠によつて明らかで、公認会計士の進言に基いた行為は不可抗力に準ずるものと云うべきで「やむを得ない理由に該当するもの」で原審の云う単なる内部事情ではない。
三、原審は、被控訴人東京国税局長に対する審査請求についても、前記同様の理由に基き訴を棄却した。
右被控訴人の却下理由も単に期間経過を理由にしたもので、斯る理由は審査請求書を受け取つたときに直ちに判明した筈なのに、三ケ月以上も経過してから却下の通知をしたことは全く不可解なことである。
国税通則法第八〇条によれば、税務署長がした処分について、異議申立がなされた場合において、次の各号の一に該当するときは、その異議申立がなされている税務署長の管轄区域を所轄する国税局長に対し、審査請求がなされたものとみなす。
(一) 異議申立がなされた日の翌日から起算して三ケ月を経過する日までに、その異議申立について決定がなされないとき(以下略)とある。即ち三ケ月を経過しても決定がない場合は、審査請求が適法になされたと看做すとする規定である。
本件の審査請求(異議申立)は昭和四一年二月二日であり、決定のあつたのは同年五月十一日である。
不確定な状態を三ケ月以上も置くことは、国民の権利の侵害であり憲法違反である。斯る不安定な状態を防ぐ為、前述の規定があるのであつて、原審が「不適法な場合を救済するためのものではない」と判断したのは、法律の解釈を誤つた法令違反である。
四、更に、原審は原告が不知と主張した作成日付の記入のない乙第六号証を証拠として採用したことは、証拠の採用を誤る法令違反である。
以上の理由により原判決は破棄さるべきで、控訴人の確定申告、被控訴人の更正決定、及び控訴人の審査請求につき御審理下さる様望むものであります。 以上